インシデントレポート  海でのカヤックロスト

海でのカヤックロストを経験しましたので報告します。
簡潔にまとめることができず、まとまりのない長文になってしまいました。ごめんなさい。

×××は判断を誤った時点。
<>カッコ内はたられば話。たらればを考えるのは悪いことではなく、今後に繋がると思う。


2008年12月の平日の朝。
自艇のサーフカヤックを持参しなかったため、FWの試乗艇を借りることにした。
九十九里のビーチはクローズ状態。どのビーチも荒れてて、ぐちゃぐちゃ。波乗りできそうもない。サーファーの姿も無い。
こんな日は河口なら乗れるかもしれない。そう思って、以前に一度、漕いだことがある河口へ行ってみた。ここも、きれいに割れてはいなかったが、崩れた後の波に乗ればいいかと思って漕ぐことにした。潮はあげ始めているところだった。

×××ここが判断の誤り。漕ぎだすべきではなかった。見た目にも良い形とは言えなかったし、崩れる前の波高はオーバーヘッド~ダブル。崩れたあとでもサイズは胸~肩。
×××自艇では無かった。フィッティングが合っていなく、いつもと同じように漕げないのだから、ハードコンディションには適さない。
×××ひとりだった。単独漕は状況によっては避ける。

河口は両サイドを堤防・テトラポットに囲まれた人工的な場所。波が入ってくる時間帯は、まるで川のスポットのように、エントリーして、決まった方向に波が割れるのでそれに乗り、またカレント(離岸流)に乗ってベルトコンベアのようにラクラクエントリー(=強制エントリー)できる。
波待ちをして観察。間近で見る波は陸で見たよりもずっと大きかった。サイズだけなら乗ったことあるような高さだが、割れることなく、ダンパーとなって崩れるのがほとんどだった。たまに、いちおう割れるやつもあった。
乗ってみようかとテイクオフしかけた波があったけど、ダンパーとなりそうだったので、あわてて波裏にエスケープ。あれに乗ってたら3メートル高から叩きつけられた。肝を冷やす。もっとインサイド(河口でいうと上流のほうへ)に待つ位置を変えた。

1本目。巨大な波が崩れたので、崩れた後の波に乗る。既に崩れたスープとはいえ背部からものすごい衝撃を喰らう。サーフィンとはいえず、ただ押し出されただけ。すげーパワーだな。でも、このパワーが海の魅力だ。波のパワーが弱まってからレギュラー方向(右走り)へ走り、またカレント(離岸流)に乗って再エントリー。
2本目。今度は、グーフィー方向(左走り)に走れそうな波を見つけ、乗ってみる。いちおう走れたが、こちらの方向はテトラポットに波が当たっているので、最後まで乗り続けているとテトラに激突しそうだ。パワーの無い日なら、ぶつかるようなことはないだろうけど、今日みたいに強力パワーの日はコントロールがきかなくなるかもしれない。グーフィー方向はやめにしよう。
2本を乗ってみて、面白いとは感じなかった。でも、もう少し乗ってみよう。

×××ここが判断の誤り。実際に乗ってみて面白いと感じないなら、さっさとあがるべきだった。スキルのある人だとしても楽しくない波だった。
でも、漕ぎだして15分しか経過してなかったので、「もうちょっと経ったら状況(波のかたち)が変わるかな」そんな気持ちがあった。そう思うなら上陸して待つべきだった。

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3本目。1本目と同様に崩れた後の波に乗る。背部から強烈な衝撃。ドッスーンと押し出され、すぐ沈。沈して2秒後、体がカヤックからすっぽ抜けた。ロールセットする前に、体がもぎ取られた。<この時、ヒザで艇をしっかりホールドしていたら、すっぽ抜けなかっただろうか? 自艇だったらすっぽ抜けなかっただろうか? 波の力の前には無力だろうか?>すぐにカヤックを掴む。背後から来たもう一発に押されて、さらにインサイド(川の上流)へ。ここはもう波が消える場所だった。パドルをカヤック内へ差し込む。
周りを見て、自分のいる位置を把握する。おそらく、この後、カレントに乗って左岸へ流されるだろう。カレントとは逆方向の右岸側に向かってカヤックを押しながら泳ぎだす。さきほどまで右岸にいた釣り人がいない。
<私が泳いでいることを知ってる人は誰もいないということ。これで河口の外に出てしまったら最悪の状況だ。シ―カヤッカーのあいだでは沖に出る際は、万が一に備え、携帯電話を携行することが推奨されてる。ソロパドリングの際は携行してたほうがいいか?>
<再乗艇はできそうもなかった。水中で乗艇し、ロールで起き上がってくるという方法もあるらしい。そんなこと可能? 練習はしてみてもいいかも。>
カレントには逆らえず、やはり左岸へ流される。テトラポットが近付いてきた。ここで上陸しよう。テトラポットへ向かって泳ぎ始めた。
このカレントはテトラポットのすぐ近くを平行に流れているが、テトラポットに向かって流れがぶつかっているわけではない。川のエディラインが岸のすぐそばにあっても、エディに入るためにはエディラインを越えなければいけないように、テトラポットに達するためにはそのラインを超えないといけない。
カヤックを掴んだままだと、テトラポットのすぐ近くなのに、なかなか近付けない。カヤックを手放した。体ひとつで泳いでいくと、容易にテトラポットに取り付くことができ、よじ登って、上陸。よし、体ひとつならラインを越えられえて、助かることが分かった。カヤックは目の前に浮かんでる。もう一度、水の中に飛び込み、カヤックを引っ張って泳いでみたが、カヤックを持っているとやはりテトラポットに近づけない。そうしてる間にも、2m以上流されている。
<腕力がある人ならカヤックを押すなり引っ張るなりして一緒にテトラポットへ近づけただろうか?>
<ロープを携行してれば、グラブループにロープを繋げて、ロープだけ持って上陸して、カヤックを引き寄せることができただろう。これが最も現実的な策であり、ロープ類を携行してなかったことが悔やまれる。>

このままいくと、それまでテトラポットに平行だったカレントは角度を変えて、本流へ向かい、サーフする波へと強制エントリーすることを知っていた。なおかつ、この先のテトラポットは取り付きにくい形だ。これ以上いくと、体ひとつでもテトラポットに近づけなくなることが予想できた。
それとも、カヤックをつかんだまま本流に向かって泳ぎだし、波にエントリーして、またキュルギュルと揉まれて押し流されて、沈脱した時と同じ状況を再現してみようか。そしてもう一度、カヤックを持ったままテトラポットに上陸することを試みようか。でも、必ずエントリーできるとは限らない。河口の外に出てしまうという、最悪のパターンの可能性だってゼロじゃない。今日の波のパワーでカヤックを離さずにいられるかわからない。

「モノは流しても、ヒトが助かることが大事。」清水さんの言葉を思い出す。「カヤックもパドルも捨てろ。泳げ!」吉野川のKさんの怒号を思い出す。
カヤックを手放した。体ひとつで泳ぎ、テトラポットにしがみついて登った。上陸した。しばらくすると、カヤックとパドルは向きを変えて、エントリーするように本流へ流れていった。
沈脱から上陸まで約3分のできごとだった。

車を停めて漕ぎだした右岸とは反対側の左岸に上陸した。右岸に戻るためには、川の上流500mくらいに先にある橋を渡り、コの字型に歩いてい帰らなければならない。
川の両岸には釣り人が10~15人くらいいた。全員にではないが、数人おきに声をかけた。
河口でカヤックで遊んでいて、人間とカヤックが離れたこと。人間はこのとおり無事であること。無人のカヤックが流れてきても心配しないようにということ。
「へー。あっそ。」
「今、潮があげているところだから、これから、カヌーが上流に流れてくるかもしれないぞ。」
「釣り船を持ってる仲間がいたら回収してやるけどなあ。今日はそいつがいないからな。」
「こんな日に海に出るなんて、あんた無謀だよ。」

歩きながら、PFDの異変に気づいた。両肩ベルトが片方の肩だけにかかっている。これまで、このPFDを着る時に、間違って腕を通したことは一度も無い。ということは、さきほど沈脱して体がもぎ取られた時にヘルメットをかぶっている頭を通りぬけて、反対の肩にかかったのだろうか。そんな状態になる場面は無かったと思うが。でも、そういうことなのだろう。サイドベルトの締め方が緩かったのだろうか。私のPFDは女性用ではなく、男性用のSサイズである。ジャストサイズとはいえない。漂流となった場合、PFDがなかったら、疲労して溺死だ。
×××サイズの合ったPFDを着用していないのはスキル以前の問題。

漕ぎだした地点まで戻ってきた。私が波乗りしていたのを見ていただろう釣り夫婦に声をかけた。「波乗りしてるのは見てたけど、しばらく経って見たら、人がいなくてボートだけ浮いてるから、もしやと思って、もう少ししたら通報しようかと思っていたところ。」
カヤックはまだ河口内に浮かんでいた。今なら回収できそうだ。
FWに戻って、自艇のプレイボート・パドル・ロープを取ってきた。往復して30分。河口に戻ってくると、潮が引き始めていた。カヤックは無かった。さきほどの夫婦に聞くと「さっきまで浮かんでいたけど。」という。対岸にいる釣り人の所まで漕いでいって聞いてみると、さきほど河口の外へ出ていったとのこと。上陸して、海に目を凝らしてみたが、荒れ狂う高波と、真っ白に泡立つ海が見えるだけだった。出勤時間がせまっていた。なに食わぬ顔で出勤。

夜、清水さんに電話で報告した。その後、清水さんが、ライフガード協会に相談した上で、消防署・警察署・海上保安庁に連絡してくれ、そのカヤックが見つかっても人間の捜索は不要であることを伝えてくれた。ただし、連絡が遅いことを注意されたようだ。
<トラブルがあったら、連絡は速やかに。>
さらに、清水さんは試乗艇を提供してくれたメーカーと仲介者の方にロストしたことを謝罪してくれた。



個人的には、今回の起きたことについては、驚いてはいないし、ショックを受けていない。これは、反省していないという意味ではないし、強がりでもないので、分かっていただきたい。
カヤックの経験は短く、幸いにも大事故に面したことはないが、そういう可能性は常に想像すべきだと、多くの先輩が教えてくれる。京都のKさんは「最悪のパターンを想像して行動する」と言っていた。
今回の件は特殊な例ではなく、妙な言い方かもしれないが想定の範囲内ではなかろうか。自然相手なので、人間の想定などはるかに超えることが起きることもあるだろう。その時は、為す術は無いのだが。

今回の件で「死ぬかと思った」などと思わない。交通事故に遭いそうになった時や、新宿の裏通りを酔っぱらって一人で歩いてた時のことのほうが、死に近く、思い返すとゾッとする。今回のことは思い返してゾッとする類のものではない。PFDに関しては、いままでそんなものを着て漕いでたと思うとゾッとして情けない。
重ねて言うが、反省していないという意味ではない。強がりでもない。反省してますので、ホントに・・・。許してください・・・。

千葉県の九十九里平野で育ち、「今年の夏は海で〇人が死んだ」という話を聞いて育った。こういう真実は新聞には載らない。海水浴の客が減ってしまい、地元の観光業に影響が出るからだ。私にとって、海は人が死ぬ所であった。そんな自分がカヤックに乗るようになってから、しょっちゅう海に浸かるようになったのは不思議に感じてる。海に対して、むやみに恐怖を感じることはなくなったが、畏敬の念は抱いている。

私個人の心情としてショックは受けていないと前途したが、周囲のことを考えると、それは別である。今回のことで、海に関わっている人々、海・川を問わずカヤックを楽しんでいる人々、海遊びの魅力を伝えたいと考えている人々、これから海で遊びたいと希望してる人々、そういった方々にマイナスのイメージを与えてしまったこと、心配をかけたこと、迷惑をかけたことは、本当に申し訳なく思っていて、心苦しく、そのことを考えると落ち込む。

インシデントレポートは共有したほうが良いので、この失敗が皆さんのカヤックライフの参考になればと記しました。


写真は別日の同場所
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by ya-ri-sa | 2009-03-02 12:11 | 海部 ・ フリーウェー部  

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